僕の友人で映画業界へ進出しようと夢見ていた人がいます。 その人は現在では断念というかその夢を追求していないんですけど、一つ言っていたことに印象に残ったのか、「私は脚本家としても監督としてもすぐれた技術を持っているが、でも自分でこれだけは自分が世界に発表しなければという話には巡り会わなかった」という言葉です。
ここのところで多くのアーティストは勘違いしてるような気がします。 ロックスターになりたいとか、映画監督になりたいとか、そういうステータス的、何かになりたい、それになることによって自分の存在を肯定するといでもいうような理由の方が先行してるんですね。 僕も長いことそうでした。 音楽を創るということでなくて、音楽を創る人になるのが目的になってしまうと、これが似てるようで実はかなり違ってきてしまうんです。 後者が夢の場合はかなり小手先であれやこれやと操作して、こう人生を何か自分の手で操ろうとしなければならないような気がするんです。 この仕事はやった方がキャリアのためになるかな、とか、この人を味方につけておくとあとで役に立つかな、とか、言葉にして暴露してしまうと何だか利己主義で他人を自分の目的のために利用するような、嫌な感じに聞こえてしまうんですね。
僕もここまで10年以上、そうやってやってきました。 でも結果としてはボコボコに凹まされたという感じ。 やることなすこと全てうまくいかないんです。 いや、それなりに実績を積んできましたけど、ちょっといくとすぐ行き詰まってしまう。 才能がないんだろうかとかやり方が悪いんだろうかとかもちろん心を悩ませました。 でも回答は見えてくるどころか、さっぱりわからないまま。
今回このアルバムをリリースするにいたっては、もうキャリアとしての音楽は考えずに、とにかく原点に戻って自分のやりたかった音楽をやろうじゃないか、というようなところから始まりました。 前にも書きましたように、この音楽をやらないで死んだら後悔するというのもここ数年わかってきましたし。
で、やってみてわかったのはやっぱり自分はこの曲たちを世界に飛び立たせてあげるという使命があったんだな、ということ。 それが自分の人生の一番の使命かどうかはまだ人生終わってないのでどうにも判断がつきようにありませんが、それでもこれが自分が生きていてやらなくてはいけないことの一部だったということは確信がもてたんですね。 変な話ですが、僕は曲というのは神からもらう贈り物のようなものと考えているんです。 で、もらって嬉しいものでもあるんですけど、でもそれには実は責任がついてくる。 せっかくもらった素晴らしい (と自分には思える) 曲たちを、自分の頭の中だけにしまっておいてはいけない、ということですね。 その上、もちろん世界に発表するにはそれなりにある程度以上「うまく」やらないと曲の持つ可能性というものが全く聞く側に伝わらないわけですから、ただやればいいというものでもないわけです。
誰にも頼まれたわけでもない、自分の中での使命感と責任感だけをモチベーションとした音楽。 これを実行に移すことがなかなかできなかったのは、僕が逃げていたからでもあります。 しまっておくことにより思い入れだけが拡大したこの音楽を冷たい世界にさらしものにするのはつらいものもありますし、何より実際にやってみて自分の頭の中でイメージしていたレベルに達しないという現実にあうかもしれない、そこが一番恐かった。 実際できてしまうと実は大したことなかったということにはなりなくなかったんです。 曲自体が大したことなかったのか、自分の演奏技術が合格点以下で曲を損なってしまったのか、どちらししても。
だからレコーディング中もその恐怖ととなりあわせのプロセスで、楽しくないことはなかったんですけど薄氷を踏むようなところも多くあり、多いに追い込まれた気分を味わいました。
で、できたものは今の自分の持てる能力を最大限(以上)につぎ込んだ、正に限界のところまで突き詰めたものになりました。 でも実は自分ではこれでいいものなのかまだいまいち判断つかないんです(苦笑)、とにかく自分ではもう限界(以上)のところまでいっているのでここでもうあきらめるしかない、というところまでいっているというとこだけは確信が持てるんですね。(笑) 完璧とか、理想とかいうレベルにはもちろんほど遠いんです。 (笑) でも精一杯頑張ったんだから、例え結果がついてこなくても後で自分で自分を許せるようになるだろうとは思うんですが。 (笑) ここでいう「結果」とはどれだけの人に気に入ってもらえるとか、どれだけのアルバムが売れるか、とかそういうとこも絡んではくるんですが、基本的には何年もたって振り返ったときに、自分で誇りをもってこの音楽をとらえられるか、という点なんですが。
マスタリングもようやく終わり、とりあえずこの一組の曲たちを発表するようになるまであともう少し。 今を生きている人間としての最低限の責任として、これだけは世界に発したかったという僕のメッセージなんですが、それがいったいどういう内容なのか、それは音楽を聴いて貰って判断してもらいたいと思います。 この10曲と、その続編になる次のアルバムとを合わせて初めて全貌が見えるようになってるので、最終的な結論はまだ先になりますが。
とにかくこの音楽は僕が全身全霊かけて訴えるもの。 それを発表するまで、あと少しになりました。